P.E2097 -K- .3「研究所から脱走を?それは、大変だったね」あれから数時間後、二人は青年のアパートに移動していた。 青年が一緒であるとはいえ、ヒューマノイドを入れてくれるような店はニューヨークには一つもない。 街角で立ち話をするわけにもいかず、青年は自分の部屋に案内してくれたというわけだ。 「でも、乗り越えた。あれがあったから、オレはいままで生きてこれたのかもな」 「強いんだね」 青年はそう言いながら優しく笑う。 「お前は、絵描きなのか?」 部屋中に置かれた絵と、机に散らばった筆を見ながら訊いた。 「そうだよ。昔から、プロの絵描きを目指してた。この街には絵の勉強をしに来たんだ」 「プロになれたのか?」 「……残念ながら、ね」 青年は、あちこちが痛んだ部屋を見回しながら、本当に残念そうに答えた。 「戦争が始まってね。絵の勉強をする事も、国に帰る事も出来なくなった」 「そうか、お前も大変なんだな」 「誰だって、今はそうさ」 ゆっくりとした時間が過ぎていく。 彼にとっては、なんだか落ち着かないような空気だったが、居心地の良さも同時に感じていた。 |